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神戸地方裁判所 昭和61年(行ウ)28号 判決 1998年1月28日

兵庫県加古川市志方町東中一八六番地の一

原告

木村薫

右訴訟代理人弁護士

伊賀興一

矢島正孝

兵庫県加古川市加古川町木村五番地の二

被告

加古川税務署長 大谷久仁雄

右指定代理人

高橋伸幸

西浦康文

冨田誠

新名徹

前田全朗

宮田泰裕

主文

一  本件訴えのうち、被告が昭和五七年五月一七日付けでした昭和五三年分所得税の更正処分のうち総所得金額を一〇〇〇万四〇〇〇円として計算した額を超えない部分並びにこれに伴う過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分の取消を求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告が昭和五七年五月一七日付けでした昭和五二年分所得税の更正処分のうち総所得金額を二四九八万一二一三円として計算した額を超える部分並びにこれに伴う過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分を取り消す。

二  被告が昭和五七年五月一七日付けでした昭和五三年分所得税の更正処分並びにこれに伴う過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、兵庫県加古川市において、不動産業、飲食業等を営む山水産業株式会社等の会社役員を務めるかたわら、昭和五二年、昭和五三年ころには、個人事業として金融業を営んでいた。

2  原告は、昭和五二年分及び昭和五三年分(以下「係争各年分」という。)の所得税につき、各法定期間までに、次のとおり確定申告をした。

(昭和五二年分) (昭和五三年分)

総所得金額 五六五万八〇〇〇円 一〇〇〇万四〇〇〇円

(内訳)

事業所得の金額 一五〇万〇〇〇〇円 五一五万〇〇〇〇円

不動産所得の金額 七六万八〇〇〇円 一六〇万〇〇〇〇円

給与所得の金額 三三九万〇〇〇〇円 三二五万四〇〇〇円

分離短期譲渡所得の金額 ― 二〇万〇〇〇〇円

納付すべき税額 三三万五〇〇〇円 一三〇万五二〇〇円

3  被告は、昭和五七年五月一七日付けで、原告に対し、別表1―(1)、(2)の「更正処分」欄記載のとおり、係争各年分の所得税の更正処分(以下「本件更正」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定」という。)を行い、右各処分(以下「本件課税処分」という。)は、同日、原告に通知された。

4  原告は、昭和五七年七月一五日、被告に対し、本件課税処分についての異義申し立てをしたが、被告は何らの決定をせずに、同年一一月一一日、原告に対し、審査請求ができる旨の教示をした。

そこで、原告は、昭和五八年五月二日、国税不服審判所長に対し、本件課税処分についての審査請求をしたが、国税不服審判所長は、昭和六〇年一二月三日付けで、右請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は、同月一四日、原告に送達された(甲一)。

二  争点

原告は、被告が主張する原告の係争各年分の受取利息のうちフジ株式会社(以下「フジ」という。)にかかる分、土地譲渡益分配金、手形回収謝礼金及び手形回収費の額は、誤った事実認定に基づくものであり、別表2―(1)、(2)、3―(1)、(2)の「原告の最終主張額」欄記載のとおりの額が正しいから、原告の昭和五二年分の総所得金額は二四九八万一二一三円、昭和五三年分の総所得金額は零円として課税すべきであるところ、これを超える額についてされた本件課税処分には原告の所得を過大に認定した違法があると主張して、その取消を求めている。

これに対し、被告は、原告の係争各年分の所得金額は別表2―(1)、(2)、3―(1)、(2)の「被告の最終主張額」欄記載のとおりであるから、原告の昭和五二年分の総所得金額を六八〇八万九一七七円、昭和五三年分の総所得金額を九一二〇万四八七七円としてされた本件課税処分は適法であると主張して争っている。

本件の争点及びそれについての当事者の主張は次のとおりである。

1  確定申告額を超えない部分に関する課税処分の取消を求める訴えは適法か

2  本件更正の適法性

(一) 係争各年分の受取利息の額

(被告の主張)

原告が昭和五二年及び昭和五三年においてフジから支払を受けた受取利息の額及びその内訳は、別表4―(1)、(2)記載のとおりである。

被告は、フジの金銭出納帳、振替伝票、兵庫相互銀行加古川支店の原告や原告に帰属する神吉博彰、藤原勇等名義の普通預金口座の金額等の変動から、原告のフジに対する貸付年月日、貸付額、弁済日及び弁済額を認定し、利息については、フジの経理担当社員の供述等により、月五パーセントと推認し、計算した。

(原告の主張)

フジの代表者であった児玉俊夫(以下「児玉」という。)は、昭和五四年になってから、株式会社明豊社(以下「明豊社」という。)の代表者であった楢木敏雄(以下「楢木」という。)から紹介されて、原告と親交を結ぶようになったが、フジと昭和五二年二月ころに事実上合併したフジ建装株式会社(以下「フジ建装」という。)の代表者であり、同月ころから昭和五三年末ころまでの間、フジの資金繰りを担当していた提正策(以下「提」という。)は、原告とは全く面識がなく、フジの原告からの借入れは、児玉が提の不明朗な資金繰りを排除するために、昭和五四年になって始められたものである。

フジからの受取利息に関する被告の認定は、昭和五二年度末から原告のフジに対する貸付取引が始まり、昭和五三年中にも数回の貸付がされたことを前提としているが、右認定は、ずさんな調査をもとにして、経験則に反する事実を独断推量して行われたもので、違法である。

(二) 昭和五三年分の土地譲渡益分配金の存否及び額

(被告の主張)

原告は、昭和五三年一〇月二八日、明豊社に対し、同社が学校法人聖和女子大学(以下「聖和女子大学」という。)から土地建物を購入する資金の一部として七〇〇〇万円を出資し、同月三一日から同年一二月三〇日までの間に、同社から、同社が右大学から購入した土地を他に売却して得た譲渡益の分配金として、右出資金に加えて二二五〇万円を受領した。

出資者が、ある営業者の営業のために出資し、当該営業者がその営業から生ずる利益を分配することを約束すれば、商法五三五条のいわゆる匿名組合契約が成立するのであり、その利益の分配は事業所得となる。

(原告の主張)

原告が昭和五三年一〇月三一日から同年一二月三〇日までの間に楢木から受領した金員は、昭和五一年以来の明豊社又は楢木に対する貸付金の回収にすぎない。

原告は、明豊社が行った右土地取引につき実質的な共同性を有せず、土地譲渡益分配金なる収入の発生する原因は存在しない。

(三) 昭和五二年分の手形回収謝礼金及び手形回収費の額

(被告の主張)

原告は、昭和五二年中に、株式会社川崎組(以下「川崎組」という。)が詐取された約束手形二〇通(額面合計一億円)を回収した謝礼金として、同社から五二〇〇万円を受領した。

右手形回収に要した費用は、右手形の回収に当たり、井上保泱(以下「井上」という。)に支払った二〇〇万円である。

(原告の主張)

原告は、昭和五二年中に、川崎組から、同社が詐取された約束手形一通(額面五〇〇〇万円)の回収への協力を依頼され、これに応じて、井上に右手形を回収してくるよう指示したところ、井上がどこからか右手形を回収してきたので、川崎組に対して右手形を返却し、その際、川崎組から謝礼金として二〇〇万円を受領したが、その余の五〇〇〇万円の手形の授受は、原告が割り引いた川崎組に対する手形債権の返済である。また、前記手形回収については、特に費用は支出していない。

(四) 昭和五三年分の手形回収費の額

(被告の主張)

原告は、昭和五三年中に、株式会社コーエー産業(以下「コーエー産業」という。)が詐取された約束手形三〇通(額面合計一億五〇〇〇万円)の回収に当たり、同社から、謝礼金として五三六四万五〇〇〇円を受領したが、原告が右手形の回収に要した費用の額は、原告が右手形の回収に当たり支払った一〇〇〇万円である。

(原告の主張)

原告が、右手形の回収謝礼金として五三六四万五〇〇〇円を受領したことは認めるが、原告が右手形の回収に要した費用の額は、次のとおり合計五八〇〇万円である。

(1) うち二〇通(額面合計一億円)について

原告は、そのうち四通を所持していたワコウ資材株式会社、一通を所持していた株式会社共栄、一五通を所持していた宮本譲外五、六名からこれらの手形を回収してきた井上に対して、三三〇〇万円を支払った。

(2) うち四通(額面合計二〇〇〇万円)について

原告は、氏名不詳の所持者からこれらの手形を回収してきた新浜悟(以下「新浜」という。)に対して、五〇〇万円を支払った。

(3) うち四通(額面合計二〇〇〇万円)について

原告は、これらの手形を所持していた八幡商事株式会社からこれらの手形を回収し、その費用として一一〇〇万円を支出した。

(4) うち二通(額面合計一〇〇〇万円)について

これらの手形は、原告が詐取された手形と知らずに井上から割引を依頼されて、九〇〇万円で割引し、うち二〇〇万円を井上の原告に対する債務の弁済に充て、その余の七〇〇万円を井上に交付していたものであるから、これらの手形をコーエー産業に対して返却した以上、右割引実行金額九〇〇万円も、手形回収費と扱われるべきである。

3  本件賦課処分の適法性

第三争点に対する判断

一  争点1について

原告は、昭和五三年分所得税に関する本件課税処分全部の取消を求めている。

しかし、納税者において申告が過大であるとしてその誤りを是正するためには、国税通則法二三条の規定により、所定の期間内に減額更正の請求をすることが要求されているのであって、右の請求以外に是正を許さないならば納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がない限り、右の請求の手続を経ることなく申告額を超えない部分についての取消を求めることはできない。

本件においては、右のような特段の事情が存在することの主張立証はないから、本件訴えのうち、昭和五三年分所得税に関する本件課税処分のうち確定申告額を超えない部分の取消を求める部分は不適法というべきである。

二  争点2について

1  受取利息の額について

(一) 証拠(乙二五、二六、証人児玉、原告本人)によれば、フジは、昭和五二年二月ないし七月ころ、同社の代表者であった児玉の友人の堤が代表者であったフジ建装と営業や資金繰りを一体化し、そのころから、主に堤がフジの経理や資金繰りを担当するようになったが、そのころ以降、フジ建装の債務についてもフジにおいて弁済するようになったことなどが原因となって、フジの資金繰りは悪化したこと、フジの運営資金は児玉及び堤が他から借入れをしてきて調達していたが、児玉及び堤は、フジの経理担当従業員に対し、金主を明らかにせずに入金をしたり、出金先を明らかにせずに借入利息の返済のためとして、会社から現金を持ち出すことが度々あったこと、経理担当従業員は、右のような場合、入金については「児玉預り金」、「提預り金」として記帳し、出金については記帳はぜずに「金券」と書いて、出金額を記入したメモを現金の代わりに金庫に入れていたこと、児玉や提の借入先は原告又は福島武であったことを認めることができる。

(二) また、証拠(乙一八、原告本人)によれば、兵庫相互銀行加古川支店の神吉博彰(原告の従業員)、藤原勇(架空名義)、松下よしゑ(原告の妻の母)の各名義の預金口座は原告が金融業上の取立金を入金させるのに利用していた口座であることを認めることができ、同銀行宝殿支店の木村高子名義の預金口座及び近畿相互銀行姫路支店の木村孝子名義の預金口座も同様であると推認することができる。

(三) そして、証拠(乙四の105、106、121、137、138、140、142、五の45、二七、二八の42~49、三〇の25、三一の6、三二の16、18、三三の33、三四の106、三五の174、246、三六の59、三七の9、三八の40、三九の93~95)によれば、フジの金銭出納帳及び入出金伝票には、別表4―(2)の番号<3>~<18>(以下「<3>」などという。)の「備考」欄記載の日に、同表「元本」欄記載の金額(ただし、<14>、<15>については合計七〇〇〇万円)が入金され、同表<3>~<15>の「年月日」欄記載の日に、右同額(ただし、<3>~<5>については合計七〇〇〇万円)が出金された事実を示す記帳がされていること、同表<3>~<8>、<11>~<13>、<17>、<18>の「備考」欄記載の日と同日又は近接した日に、兵庫相互銀行加古川支店の原告、神吉博彰、藤原勇若しくは松下よしゑの各名義の預金口座又は志方町東農業協同組合の原告名義の預金口座から、同表「元本」欄記載の金額と総額において同額又は近似した金額が出金されているか、原告又は木村高子の名義で右の額と総額において同額又は近似した金額の借入れがされており、同表<3>~<15>の「年月日」欄記載の日と同日又は近接した日に、右各預金口座又は近畿相互銀行姫路支店の木村孝子名義の預金口座に同表「元本」欄記載の金額と総額において同額又は近似した金額の入金がされているか、原告名義の右の額と総額において近似した金額の借入金返済がされていることを認めることができる。

被告担当者は、右フジの金銭出納帳及び入出金伝票から抽出した児玉及び提預り金のうち、その発生源が明らかでないもの及び右預り金の発生及び返済の双方が原告の不明入出金と一致するものについて、原告からフジに対する貸付金と認定したものであることが認められる。

これらの事実を総合すれば、原告がフジに対し、別表4―(2)の<3>~<18>の「備考」欄記載の日に、同表「元本」欄記載の金額を貸しつけて、同表<3>~<15>の「年月日」欄記載の日に、右同額の返済を受けたと認めるのが相当である。

なお、原告は、別表4―(2)の<8>、<9>について原告に帰属する松下よしゑへの入金は、<8>が四一〇〇万円、<9>が五〇〇〇万円と各「元本」欄記載の額と乖離している、右貸付金につき原告の入出金の追跡調査がなされていないなどと主張するが、原告は前記入出金についての具体的な主張をせず、その資料も提出しないのであり、前記認定のフジの借入金についての処理方法、金銭出納帳、入出金伝票等に鑑みると、これのみをもって原告からフジに対する貸借関係を否定することはできないというべきである。

(四) また、証拠(乙二四、二六、二七、三二の16、18)によれば、同表<16>~<18>の弁済については、フジの金銭出納帳及び出金伝票には弁済されたとの記載がないが、その後昭和五三年一一月から昭和五四年三月までにフジが原告から借り入れた五億円のうち、昭和五三年一一月四日の三五〇〇万円、同年一二月三〇日の二億〇四八〇万円の二口がフジに入金されていないことからすると、右金員はこれまでの分を纏めたものと推認されること、フジの借入利息返済のために現金を持ち出す場合に用いられる金券の額が、昭和五三年九月三〇日には九九六七万円あり、これらは利息の支払に充てられたと認められること、右金券の額が同年一二月三〇日から翌五四年一月八日までの間に四八七五万六九七八円増加しており、前記期間内に右と同額の利息の支払があったと推認できること、また同表<19>については、昭和五四年二月二八日、フジ建装を通じて入金していたものを昭和五三年一二月三一日に振り替えたと認められる児玉預り金四四〇〇万円が決済されていること、右フジ建装を通じての借入金は、少なくとも同年一一月以前に発生したことが認められるのであり、これらの事実を総合すると、同表<3>~<15>については同表「年月日」欄記載の日に、<16>~<19>については、昭和五三年一二月三一日に利息の入金があったものと認めるのが相当である。

(五) そして、証拠(甲一〇、乙二六、二七、証人楢木)によれば、フジの経理担当従業員は、昭和五三年一二月以前に提から、金利月二分から五分で借入れをしていると聞いたことがあったこと、フジの金銭残高表上に昭和五三年四月一七日に発生し、同年五月一六日に解消したように記載されている金券の増減額は月五分で計算した額に相当すること、原告がフジの経営に参加するようになった昭和五四年一月以降には、原告のフジに対する貸付は月利四分で行われる約定となっていること、楢木が原告から借入れをする際には最低月利六分を支払っていたことを認めることができる。

右事実に照らすと、原告がフジに対して昭和五二年一一月三〇日から昭和五三年一二月五日までの間に貸し付けた金員の金利の額を月利五分と認めるのが相当である。

(六) そして、被告は、原告のフジに対する貸付金につき、昭和五二年度について同年一二月末までの受取利息については、利息制限法内の年一五パーセントの割合で計算(別表4―(1))し、昭和五三年度については、別表4―(1))し、昭和五三年度については、別表4―(2)「年月日」欄記載の日に弁済があったと認定し、貸付日から弁済日までの期間につき五分の割合で利息を計算しているのであって、右受取利息の額が、昭和五二年分につき二三万〇一〇〇円、昭和五三年分につき四二九〇万三四〇〇円となることは計算上明らかである。

(七) これに対し、原告は、フジの原告から借入は、昭和五四年になって始められたものである旨主張し、証人児玉及び原告本人の供述中にはこれに沿う部分がある。

しかし、乙二四によれば、児玉は、昭和五四年一月初めころに、フジの取締役である嶋岡鶴志に対し、会社の経営が資金的に行き詰まっているので、以前から資金的な援助を仰いだことのある原告を招へいして、資金援助を仰ぐとともに経営に参画してもらって現状打開と体質改善を図りたいと述べていたことを認めることができること、嶋岡鶴志もフジが原告から昭和五三年一一月以前にも借入をしていたことを認めていることに照らすと、証人児玉及び原告本人の右供述部分は採用できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(八) したがって、原告の益金に算入すべき受取利息の金額は、別表2―(2)、3―(2)の「被告の最終主張額」欄記載のとおり、昭和五二年分については一億四四四七万七〇九七円、昭和五三年分については一億六〇九六万四一三三円となる。

2  土地譲渡益分配金の存否及び額について

(一) 証拠(甲一七の1、3、乙二五八、二五九の18、19、証人楢木)によれば、次のとおりの事実を認めることができる。

(1) 明豊社の代表者である楢木は、昭和五一年ころから、明豊社が行う不動産事業の資金を調達するために、原告から借入れをするようになった。原告からの借入れの際には、楢木個人が原告から借入れをし、即日、同額を明豊社に社長仮受勘定で入金して、明豊社振出の約束手形又は弟の楢木守振出の小切手を担保として交付していた。

(2) 楢木は、昭和五三年一〇月ころ、明豊社が聖和女子大学から西宮市河原町四八番一の土地及び同番地所在四八番、四八番の二の建物を買い受けて、右土地を他に転売することによって約八〇〇〇万円の利益を得る見込みがあったことから、原告に対し、右土地建物の購入に当たり聖和女子大学に対して支払う手付金七三〇〇万円の一部を融資してもらう代わりに、右見込み利益の半分である四〇〇〇万円を事業報酬として支払うことを申し出たところ、原告もこれを承諾して、楢木に対し、同月二八日、七〇〇〇万円を貸し付けた。

明豊社は、昭和五三年一〇月二八日、聖和女子大学から右土地建物を買い受けて、同月三一日、右土地の一部を高宗裕子に転売し、同人から、手付金として一七〇〇万円の支払を受け、さらに、同年一二月五日、同人から、売買残代金の支払を受けた。また、明豊社は、同月二五日、その余の右土地を株式会社松村組に転売し、同社から、売買代金の支払を受けた。

(3) 楢木は、昭和五三年一〇月三一日に一五〇〇万円、同年一一月三〇日に一五〇〇万円、同年一二月二九日に四九五〇万円、同月三〇日に一三〇〇万円の合計九二五〇万円を明豊社から仮受金返済の勘定で出金して、右各同日ころ、原告に対し右各同額を支払った。

(二) 右認定のとおりの金員支払の経緯、時期及び額によれば、原告が、昭和五三年一〇月三一日から同年一二月三〇日までの間に、楢木から、前記貸金額七〇〇〇万円を超えて受領した二二五〇万円は、前記土地の購入資金を提供した際に、右土地の購入と転売により生じる利益の分配を約束したことに基づき、その履行として受領したものであり、その性質は土地譲渡益の分配金であると推認することができる(右の利益分配の約束が商法五三五条が規定する匿名組合契約に該当するか否かは論じるまでもない。)。

(三) これに対し、原告は、昭和五三年一一月から同年一二月までの間に楢木から受領した金員は、昭和五一年以来の明豊社又は楢木に対する貸付金の回収にすぎない旨主張し、証人楢木及び原告本人の供述中には、原告が楢木から昭和五二年及び昭和五三年に受領した金員は、明豊社が昭和五一年ころに大和団地株式会社(以下「大和団地」という。)と取引した際の貸付に対する返済である旨供述する部分がある。

しかし、楢木は、昭和五三年ころ、原告に対し、二億円以上の債務を有し、元利金を全く返済していない旨供述しているところ、右の状況で原告が更に七〇〇〇万円を楢木に貸し付けること自体不自然であること、乙三二一によれば、明豊社が大和団地と土地売買契約を締結したのは昭和五四年七月一六日であることを認めることができるが、他方、明豊社が昭和五一年中から大和団地に売り渡した土地の取得に取りかかっていたことを認めるべき証拠はないこと、乙二五八によれば、楢木は、昭和五五年五月一三日に大蔵省国税局収税官吏による質問調査が行われた際には、同日までに、原告に対して支払うことを約束した西宮市の土地の事業報酬四〇〇〇万円のうち二〇〇〇万円程度は、明豊社の仮受金勘定の社長仮受の出金で支払っていると思うと供述していたことを認めることができることに照らすと、証人楢木及び原告本人の前記供述部分は採用できず、他に前記(二)の推認を覆すに足りる証拠はない。

(四) したがって、土地譲渡益分配金二二五〇万円は、原告の昭和五三年中の益金に算入すべきである。

3  川崎組の手形の回収謝礼金及び回収費の存否及び額について

(一) 原告が、昭和五二年中に、川崎組から手形回収謝礼金として二〇〇万円を受領したことは、当事者間に争いがない。

(二) 証拠(乙一四、四六、二六〇、三一九、証人井上、原告本人)によれば、次のとおりの事実を認めることができる。

(1) 川崎組は、昭和五二年一一月ころ、金融ブローカーから、有利な資金の融通をするなどと持ちかけられて、額面五〇〇万円の約束手形二〇通(額面合計一億円。以下「川崎組手形」という。)を詐取された。

(2) 原告は、川崎組手形が詐取された当日のうちに、井上から、そのうち一〇通(額面合計五〇〇〇万円)の割引を依頼されて、右手形を受領した。

原告は、右の当時、後記のとおりコーエー産業から詐取され、井上から一部が原告に持ち込まれた約束手形の回収を井上に命じて行わせている最中であった。

(3) 川崎組の代表者であった川崎博司(以下「川崎」という。)は、原告が川崎組手形のうち一〇通を所持していることを知り、原告に対して事情を説明したところ、原告から、原告が所持していない川崎組手形一〇通(額面合計五〇〇〇万円)は回収してやるから、既に割り引いている五〇〇〇万円の手形については決済するようにと求められた。

(4) 原告は、井上に指示して、川崎組手形の残り一〇通を回収させ、昭和五二年一一月二〇日すぎころ、原告が所持していた一〇通との合計二〇通全部を川崎に交付した。

川崎は、受領した川崎組手形二〇通はすべて焼却し、原告に対し、新たに作成した額面一〇〇〇万円の約束手形五通(額面合計五〇〇〇万円)を交付して、後日、これを全額決済した。

(三) 右認定のとおり経緯によれば、原告は川崎組手形が詐取されたものであることを察知しながら、井上から交付を受けたものと推認することができる。証人井上及び原告本人の供述中の右推認に反する部分は、前項掲記の各証拠及びそれにより認定できる事実に照らし採用できない。

右の事実に、川崎組が原告に対して支払ったのは川崎組手形そのものの手形金ではなく、川崎組手形の返還時に新たに振出交付された約束手形の手形金であることを合わせ考慮すると、原告が川崎組から五〇〇〇万円の手形金の決済を受けたのは、川崎組手形の所持人としてではなく、川崎組手形を回収したことに対する謝礼金の趣旨であったとみるのが相当である。

(四) したがって、原告の昭和五二年中の益金として算入すべき手形回収謝礼金の額は五二〇〇万円である。

一方、証拠(乙一四、証人井上)によれば、原告は、川崎組手形の回収に関し、費用として井上に対し二〇〇万円位を支払っていることを認めることができるから、右同額を原告の昭和五二年中の損金に算入すべきことになる。

4  コーエー産業の手形の回収費の額について

(一) 原告が、昭和五三年中にコーエー産業が詐取された約束手形三〇通(額面合計一億五〇〇〇万円。以下「コーエー産業手形」という。)を回収して、同社からその謝礼として五三六四万五〇〇〇円を受領したこと、原告が同年中に右手形の回収費として一〇〇〇万円を下らない金員を支出したことは当事者間に争いがない。

(二) 原告は、コーエー産業手形の回収費用として、うち二〇通を回収した井上に対し三三〇〇万円、うち四通を回収した新浜に対し五〇〇万円をそれぞれ支払い、うち四通を自ら回収するに当たり一一〇〇万円を支出したほか、うち二通につき詐取手形と知らずに井上に対し割引をして支払った九〇〇万円も手形回収費用と扱われるべきであると主張するが、右主張は次の理由により認めることができない。

(1) 原告主張の支出額のいずれについても、これを裏付ける領収書等の客観的証拠は存在しない。また、原告は、コーエー産業手形の回収の謝礼金として五三六四万円余を取得したにすぎないのに、右回収の費用として、右金額をはるかに超える五八〇〇万円を支出するのは不自然である。

(2) 乙二六〇、三一九によれば、原告自身が、昭和五五年一〇月一七日に大阪国税局収税官吏の質問調査が行われた際には、コーエー産業手形の回収には、約七か月程かかったので多額の経費を使ったと供述しつつ、その大部分は使い走りの者に払ったものだが、それ以外の経費も含めると約一〇〇〇万円位は使ったと思うと述べていたことを認めることができる。

原告本人の供述中には、右質問調査の際の供述は、経費とはホテル代、高速代、飲食代等をいうとの前提でしたものであり、手形を回収したり、割ったりするのは経費と思っていなかったかのように述べる部分があるが、原告本人の右供述部分は、乙二六〇、三一九に記録された供述内容と明かに矛盾しており、採用できない。

(3) 甲二〇には、井上が原告からコーエー産業手形の回収費用として合計三三〇〇万円を受領したことに相違ないとの記載があるが、証人井上の供述によれば、右書面は、本件課税処分がされた後に、原告の求めにより、井上が作成したものであることを認めることができ、右事実に照らすと、甲二〇からその記載どおりの事実を認定することはできない。

(4) 証人新浜は、コーエー産業手形のうち自ら所持していた三通及び他に割引に出していたのを回収した一通の合計四通を原告に交付して、原告から合計八〇〇万円を受領した旨供述するが、証人新浜の供述は、右の部分を含め、証人井上及び原告本人の供述と金額、経緯等につき相互に矛盾しており、採用できない。

(5) 原告が、その主張のとおり、井上に対してコーエー産業手形の一部を九〇〇万円で割り引いたとしても、それは手形回収とは別個の行為であり、割引実行金額と同額を手形回収費に算入することはできない。

(二) したがって、原告の昭和五三年中の手形回収費として、当事者間に争いがない一〇〇〇万円を超える額を損金に算入することはできない。

5  まとめ

原告の係争各年分の所得金額の計算のうち前記1~4において検討した以外の部分が別表2―(1)、3―(1)の「被告の最終主張額」欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

以上の事実に基づき、原告の係争各年分の総所得金額を計算すると、昭和五二年分については七三二一万一三一三円、昭和五三年分については一億一〇四三万四九八七円となり、いずれの年の分についても本件更正における認定額を上回る。

したがって、本件更正には原告の所得金額を過大に認定した違法はなく、本件更正は適法にされたものと認めることができる。

三  争点3について

1  前記争いのない事実及び認定事実によれば、原告は多額の所得金額があるにもかかわらずこれを秘匿して、実際の所得金額より少ない内容の確定申告をしていたことになる。

また、証拠(乙一八、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、大阪国税局査察部の査察官が収集した資料に放火し、その一部を焼失させたこと、原告は、受取利息等が入金される預金口座に他人名義又は架空名義を使用し、利子所得及び雑所得が発生する定期預金及び定期積金の口座にも多数の仮名を使用していたこと、原告は、分離課税の対象となる土地譲渡に係る事業所得の金額及び昭和五二年分の分離短期譲渡所得の金額の計算の基礎となる取引につき他人名義を利用していたことを認めることができる。

これらの事実によれば、原告は、係争各年分の事業所得及び利子所得の金額、昭和五二年分の分離課税の対象となる土地譲渡に係る事業所得及び分離短期譲渡所得の金額並びに昭和五三年分の雑所得の金額について、課税標準等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、仮装する行為をしたものというべきであるから、本件賦課決定のうち被告がこれらの所得金額について本件更正により納付すべき税額につき重加算税を賦課した部分は適法である。

2  原告が昭和五二年分の不動産所得の金額及び昭和五三年分の分離短期譲渡所得の金額を過少に申告したことについては、本件全証拠によっても正当な理由があると認めることはできない。

したがって、本件賦課決定のうち被告が右所得金額について本件更正により納付すべき税額につき過少申告加算税を賦課した部分も適法である。

四  結論

よって、本件訴えのうち、昭和五三年分所得税に関する本件課税処分のうち確定申告額を超えない部分の取消を求める部分は不適法であるからこれを却下することとし、その余の本件課税処分の取消請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 徳田園恵 裁判官 桃崎剛)

別表1-(1)

課税の経緯(昭和52年分)

<省略>

別表1-(2)

課税の経緯(昭和53年分)

<省略>

別表2-(1)

合計所得金額の主張

<省略>

別表2-(2)

事業所得の金額の計算(昭和52年分)

<省略>

別表3-(1)

合計所得金額の主張

<省略>

別表3-(2)

事業所得の金額の計算(昭和53年分)

<省略>

別表4-(1)

フジ(株)

昭和52年分

<省略>

別表4-(2)

フジ(株)

昭和53年分

<省略>

別表4-(2)

フジ(株)

昭和53年分

<省略>

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